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Artist:

今津景展「Broken Image」

Kei IMAZU

 

 

 

今津景展「Broken Image」

2015年2月28日(土)~3月28日(土)

オープニングレセプション:2015年2月28日(土) 18:00 – 20:00

今津景は、2007年に多摩美術大学大学院美術研究科を修了し、2009年に「VOCA2009」にて佳作賞を、2013年に絹谷幸二賞奨励賞を受賞した新進気鋭の作家です。
今津は一貫して絵画を制作してきました。初期の作品から今日までの制作方法で非常に特徴的なのは、作家が集めた画像等を一度コンピュータに取り込み、あるいはインターネット上に散らばっている無数の画像を集め、それらを重ねたり組み合わせたりし、ストロークの編集までをもコンピュータグラフィックス(CG)で決定した後に、その図を改めて油彩でキャンバスに描き直す点です。
近代の絵画が写真技術の発生に触発され、絵画を解体し、印象主義やキュビズムなどの全く新しい視線を獲得したように、今津の絵画はCGと出会い、「絵画」を解体し、むしろモチーフの「存在」を立ち上がらせているように見えます。

今回の新作では、廃仏毀釈によって遺棄された仏像、紛失や戦争で消失した現存しない絵画作品や、イコノクラスムに関する図像が意識的にモチーフとして選ばれています。これは昨年、今津が廃仏毀釈運動で破壊され朽ちた仏像や「踏み絵」のレプリカに出会った際に「人の形は一度理念を持って像に表されてしまったら、姿かたちが変化したとしても、本質としてのその印象は変わることなく存在していくのだと思」ったことに端を発しています。また、「インターネット上から拾われた様々に歴史のあるイメージが、壊れたまま立ち上がっている状態を絵画に」したいという強い考えから、新たに展開され始めました。

今展で発表される「Standing Tathagata」には、廃仏毀釈運動で壊された唐招提寺の如来立像が、「Berlin1943-1945」には第二次世界大戦中にベルリンの美術館への爆撃によって破壊されたカラヴァッジオによる「聖マタイと天使」*1と、シリア製の石像*2が描かれています。いずれも白地の画面上に、現存中の形を留めつつ溶解しているかのように見える図像が描かれています。
「元来のイメージが崩れていき“絵の具”という物質になる時に起こる認識のズレに興味がある」と今津が言うように、そのズレが私たちの知覚に引き起こす震動は大きく、そこに立ち現れるのはメルロ・ポンティが言う、「本質」であり、私たちに今、改めて「絵画」と対峙する悦びを与えてくれます。
また、背景に注目してみると、そこは塗り残されている地ではなく、白い絵具によって塗り込められていることに気付きます。これは、今津が対象(あるいは図像)を「概念」として扱っているのではなく、ものとしての「存在」を際立たせる意図によることが分かります。

今展で同じく発表される「Nude Colors」は絵画史上で描かれてきた裸像を再考する為に描かれた作品ですが、この作品のように背景が白でない作品では、キャンバスの奥に向かって拡がりを持った世界が描かれています。時間軸、歴史などが解体、再構築され、混ぜ合わせるように画面に留められた像からは、一種謎解きのような面白さと、透明、不透明の絵具の重なりによって生まれる肌の質感のような生々しさが感じられ「離れて持つ」*3—眼で触る—面白さがあります。

このように、今回の展覧会ではイコノクラスムの中で存在の強固さを際立たせている作品と、絵画の歴史を再解釈する今津の視線とが共に展示され、今津景という希有な作家の力量を存分に堪能できるまたとない機会となっております。是非ご高覧下さい。

*1 爆撃により消失。画像のみ現存。
*2 紀元前10世紀製、テル・ハラフより出土。爆撃で破壊後にパーツが繋ぎ合わされ現存。
*3 メルロ・ポンティ, 滝浦静夫・木田元訳(1966)「眼と精神」p.263 l.13 1966、みすず書房。

Kei IMAZU

 

 

 

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